行かないで。
貴方がいないと、
私が崩れてしまいそうなの。
何年かぶりの京都。
関西選抜が使うトレーニング場に向かう途中、ふと思い出した。
「学校、どないなっとるんやろ?」
何かを思い、考えた。
「寄って行こか。」
普通なら思い出が詰まっているはずの学校が、
自分にはない。
自分の学校がここにはない。
それなら作ってから行こう。
うろ覚えの道。
記憶に薄い並木。
古い神社。
1回も行かなかった中学校。
「ここは全然覚えてへんなぁ。」
「シゲっ??!!」
突然、後ろから声がした。
振り向いたそこには、自分と同じくらい綺麗な金髪の少女がいた。
「…どちらさんでしたっけ?」
「ウチや!や!!」
「って…あぁ!隣ん家の!!」
「覚えててくれたんや…。今までどこ行ってたん?」
「ちょっとぷらっと東京にな。それにしてもお前、その髪の色は何や?」
「シゲもやん。…背高くなったね。」
「まぁな。前は同じくらいやったもんな。」
シゲはの頭に手を置いた。
それに照れては下を向いた。
微妙な沈黙が訪れる。
それを破ったのはだった。
「そや!今からどっか行くん?」
「あぁ、ちょっくらサッカーしてくるんや。」
「何でさっかー?」
「関西選抜に選ばれたさかい、毎週末こっち来てやっとる。」
「ふーん…。ウチも行ってもいい?」
「ええけど暇なんか?」
「うん。部活も午前で終わりやし、午後から何もなかったし!」
「ほな行きましょか。」
「あらノリック。」
着いたそこには、ノリックこと吉田光徳がもういた。
1人でリフティングしている。
こっちの存在に気づくと大きく手を振った。
「藤村〜〜〜!!今日は遅かったやん!!」
手を振っていたかと思うと、こっちに向かって走ってきていた。
まずを見てシゲを見直す。
「友達?」
「幼馴染みや。さっき学校寄ったらたまたま会ってん。」
「ふーん。僕吉田光徳ゆうねん。よろしゅうなー♪」
シゲを見ていたかと思うと今はを見ている。
いつもの通り一人称が≪僕≫で、可愛らしくといっちゃなんだが、笑顔を見せた。
「です。仲良うしたってな。」
「ノリック、ちょっと。」
シゲが真面目そうな顔をし、ノリックに言った。
とはちょっと離れ、聞こえないように小声で言う。
「にちょっかい出すなよ。」
「君、僕のこと信用してへんの?」
笑顔で言った。
シゲも笑顔で返す。
「信用してるから言っとるんや。まぁ、はっきり言っとくわ。手ぇ出すなよ。」
「分かっとるよ。君の愛しの彼女やもんな。」
「まだや。今日中に落とすけどな。」
「まぁがんばってな。ところで他のヤツらが声かけとるけどええの?」
に2人の男がくっついていた。
「〜、遠慮することないで。思いっきりぶちのめしーやー。」
「その後はウチ知らへんからね!」
まず右に居た男に足をかけ後ろに押し倒した。
もう1人の男が後ずさりをする。
それを見逃さず、素早く背後にまわり首をついた。
「確か、暫く動けへんようになるツボやったかな。」
ノリックは口を開けて話すことを忘れていた。
シゲは笑っている。
「そろそろこっち戻ってきーや、ノリック。」
「藤村…彼女何かやってるん?」
「柔道やったかな。強いでー。俺ほどやないけどな。」
それから練習が始まった。
はスタンドで大人しく座っていた。
たまに携帯を触り、たまに時計を見る。
休憩中にはシゲの傍に寄っていき、終わるとまた大人しく座った。
やっと、終わった。
「、退屈やったやろ?帰ろか。」
「ねえ、また東京帰るん?」
シゲは一瞬戸惑った。
「あぁ、学校あるさかいな。」
「またこっち戻ってこんの?」
「何とも言えへん。」
それまでシゲの目を見て話していたは、真っ直ぐ前を見た。
最初迷ったような表情だったのが、すぐに変わった、
迷いのない、何か決意をした顔だった。
「ウチ、シゲが好きや。」
「俺も好きやで。」
「ウチは1人の男として好きなんや。」
「分かっとる。俺も好きや。」
「………ウチのために東京行かんといて。」
「…………」
2人とも黙った。
はシゲの前に立ち、切実な願いを伝える。
「シゲがいない間、すごいつらかったんやで。連絡もないし、もちろん帰ってもこなかった。」
「すまん。」
「もう離れとうない。」
そこまで言ったところで、また黙った。
下を向くの頭に、また手を置く。
そのまま、もう一方の手での手を掴み体を引き寄せる。
「シゲ…?」
「大丈夫やから。俺はずっと好きやから。」
その夜、シゲは東京に戻って行った。
貴方がいないと崩れてしまいそうなの。
だから、まだ目に焼きついている貴方の姿が
消えないうちに
帰ってきて。
++++アトガキ。++++++++++++++++++++++++++++++
ノリックが書きたいです。
シゲからノリックに変えようかと…(爆)
あぁ、あの小ささがたまらなく可愛いよぅ…
南結笑